日本製鉄の橋本英二会長兼CEOと米トランプ大統領日本製鉄の橋本英二会長兼CEO(左)と米トランプ大統領 Photo:JIJI,CNP/JIJI

日本製鉄による米USスチール買収交渉は、日鉄の宿願であったUSスチールの完全子会社化で決着する。だが、日鉄は、同買収に消極的だった米トランプ大統領を説得するために数々の譲歩を余儀なくされた。日鉄がUSスチール買収で払うことになる“代償”を徹底検証する。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

泥仕合と化した巨額買収交渉が遂に決着!
USスチール完全子会社化で日鉄の「完全勝利」?

 1年半に及んだ巨額ディールが、遂に決着する。国内鉄鋼最大手の日本製鉄が、買収承認に必要な国家安全保障協定を米国政府と締結し、米USスチールを141億ドル(約2兆円)で完全子会社化することが確実となった。買収手続きは6月18日に完了する見通しだ。

 ここまでの道のりは、平坦なものではなかった。日鉄が2023年12月に発表したUSスチール買収は、発表当初は24年4~9月のクロージングを見込んでいた。しかし、大統領選を控えたトランプ、バイデン・ハリス両陣営が反対したことで政治問題化し、交渉は長期化した。

 今年1月には、退任間近だったバイデン米大統領(当時)が、日鉄のUSスチール買収に中止命令を発した。それに対し、日鉄とUSスチールがバイデン氏や米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスなどを提訴したことで、多くの企業や団体を巻き込む泥仕合の様相を呈していた(USスチール買収を巡る訴訟については、特集『日本製鉄の蹉跌 鉄鋼 世界大乱戦』の#2『日本製鉄が「米大統領を提訴」で狙う形勢逆転シナリオ!労組や米鉄鋼大手が反対するUSスチール買収への訴訟戦略』参照)。

 しかし、日鉄側が譲歩を続けたことでトランプ氏の説得に成功。バイデン前大統領が発した中止命令を修正させ、USスチールの完全子会社化という日鉄側の悲願が実現することとなった。

 日鉄の営業部門関係者は、「USスチール買収で米国市場を手中に収められる。これまで国内中心だった一部の高付加価値品を米国に広げていくチャンスだ」と期待に胸を膨らませる。国内市場の縮小が続く中、海外市場の強化を進めてきた日鉄にとって、北米進出の足掛かりとなる今回の買収の意義は大きいのだ。

 だが、この買収の代償は決して小さくはない。日鉄は、次ページで述べるように米国政府を説得するために譲歩を繰り返してきた。そのため、買収額が当初想定していた2兆円から実質的に3.6兆円にまで膨れ上がり、金額以外の面でも数々の条件を課されることとなった。

 果たして、この買収は日鉄にとって本当に「勝利」と言い切れるのだろうか。

 次ページでは、日鉄がUSスチール買収で払うことになる“代償”を徹底検証する。